【第一章】 事故 (1)
平成7年7月3日
夕方前・・・・
外は突然真っ暗。
ゴロゴロゴロゴロ!
パリパリパリリ!!
ちぃちゃんは車で走行中。
あっという間に車の外は真っ暗になり、10メートル先も見えないくらいに土砂降り。
時々、フラッシュをたいたように明るくなると同時に、バリバリバリバリ!!
怖くて危なくて、ちぃちゃんは近くのガソリンスタンドに寄り、給油し、
コーヒーを飲みながら雨が落ち着くのを待った。とにかく怖かった。
今までで一番怖い雷雨だったかもしれない。
この日は、新宿のライヴハウスに始めて出演する日だった。
事故もなく、無事に仕事を終えて家に帰ると、
母: お帰り、大変なのよ
玄関を上がると、変な唸り声なのか泣き声なのか・・・
ちぃちゃん: なに?
母: この猫が夕方、空き地の前で車にひかれたらしくてね。
お隣さんがうちの猫だと思って知らせに来てくれて・・・
死んでしまっていたら、後続車でぐちゃぐちゃになってしまうから、
道路の端に寄せてあげようとしたら、ひくひくって動いたのよ。
道路にはかなりの血が流れててね。
もうだめかも知れないと思ったけど、母は家に連れてきてかかりつけの
獣医さんに電話をしたらしいが、7時を少し回っていて、電話は繋がらなかったらしい。
ちぃちゃんは、あまりにも苦しそうな声を立てている猫を恐る恐る覗き込んだ。
なんと!
顔は変形し、目、鼻、口と出血。そして、その目はゼリーがぐにゅ~とつぶれて
流れ出るように飛び出している。
ちぃ: う、うそ! なにこれっ!!
母: かわいそうだけど獣医さんも電話が繋がらないし、何とか朝まで持ってくれたら・・・
ちぃ: ・・・・・・
母: とにかく、うちのネコ達を凄く怖がるし、うちのネコもそばに寄りたがるから、
私の部屋において、他の子たちを入れないようにする。
朝までがんばってくれたらいいんだけど・・・
ちぃ: うん、うん・・・・・
そう言いながら、私はポロポロ涙がこぼれ落ちた。
(たくましかったあの子だ! こんな姿になっちゃって! ひどい・・・
お願いだよ、朝までがんばって!)
ちぃちゃんは気になって、時計を見るけど、さっき見たときからまだ5分しか経ってなかったり・・・
そっと覗きにいくけど、どうすることもできなくて・・・
母は電気を消し、寝た振りをしてるけど、時々ガサガサ音がしている。
気になってネコを覗き込んでるんだ。
そして、ネコが苦しそうに声をあげる。母がきっと、口や鼻の血をそっとふき取ってるに違いない。
ネコはそれが判らないから怖くて、苦しくて声が大きくなるんだ・・・
私はうちのネコ達が騒がないように気を使った。
ノラネコにとって、自分の近くに他のネコがいるのを察したときほど怖いものはないだろうから。
まして、逃げられないのだから・・・
でも、意識はあるのだろうか?
それとも、もしこのまま静かになってしまったら・・・
神様、どうかこの子を助けてください。朝になれば獣医の先生が来てくれる。
ちぃちゃんにとって、今まで経験したことのないような長い夜がスローモーションで過ぎて行った。
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